第13章 特進クラス争奪戦(銀八side)Rー18
昼休みになって、坂本と全蔵に起こされるまで、俺はまた寝てしまっていたらしい。
「具合はどうじゃ、金八」
身体を起こすと、さっきまでの最悪な気分は脱していた。
「顔色も良くなったわね」
俺の顔を見た保健の先生は、そう笑顔を見せた。
「授業に戻れる?シャツはもう少し乾かしておきましょ」
「はい、ありがとうございます」
俺はうなずいた。
保健室から出て歩いていると、全蔵が言った。
「銀八、お前、姫川先生にあんまり心配かけるなって、この前も言っただろ」
「……」
そうだっけ、と思った俺の頭に浮かんだのは、愛里先生とあの教師の秘密を知ったあとに全蔵に出くわしたときのことだった。
そうだ、あのときにも全蔵に言われたのだった。
「盛大に血を吹いたからの」
先生の痴態を思い出して鼻血を出したなんて言えない。
「さすがに姫川先生も、顔を青くしてたぜよ。お前本当にチョコの食い過ぎじゃなか?」
「ちげェよ」
「姫川先生には謝ったのか」
「ああ……授業が終わったあと、先生が保健室に様子見に来てくれた」
「そうか。よかったな」
「え?」
「あこがれの先生が心配して保健室に来てくれたなんて、何つう禁断のシチュエーションじゃあ!」
「むしろ、また鼻血が出そうだな」
「いや、股間の方に血が集まるから、鼻からは出ないんじゃなか?」
「うるせえよ」
他愛ないおしゃべりが、今はありがたかった。
そうだな。
たぶんこの2人が考えているのとは少しちがう意味でだけど、愛里先生が保健室に来てくれたのは嬉しかった。
あんなにひどいことをしている俺なのに、先生が少しでも俺のことを思っていてくれているのがわかって。
それが生徒に対する教師としての優しさだとはわかっていても。
人間として卑劣なことをしている俺には、それで十分だ。