第13章 特進クラス争奪戦(銀八side)Rー18
「起こしちゃった?」
「……」
「血は止まったのね」
「はい……せんせ……授業途中で抜けてすみませんでした」
「いいのよ。身体の方が大事」
「……先生の方こそ、疲れてないんですか」
先生は一瞬カーテンの向こうに目を走らせたが、
「私は大丈夫」
と小さな声で言った。
昨日は無理させてごめんなさい、あれから俺はもう1回抜きました、授業中に思い出して鼻血出したんです、などなど、言いたい懺悔が色々あったけれど、こんな場所で口にできるはずもなかった。
「昨日、あまりよく眠れなかったんです」
誰かが聞いていても大丈夫なように、それだけ、口にした。
「そう……かわいそうに」
先生は手を伸ばして、俺の髪の毛を撫でた。
小さい子どもにするように。
でもとても気持ちいい。
「まだ顔が青いわね。もう少し休んでいた方がいいわ」
「……先生」
「ん?」
「……迷惑かけてごめんなさい」
俺の髪の毛を触っていた先生の手が、一瞬止まった。
もちろん俺は、授業を途中で抜けたことだけを謝っているのではない。
そしてそれは先生にちゃんと伝わったようだった。
「……謝らなくていいのよ、別に。あなたが悪いんじゃない」
「でも」
「心配しないでいいから、もう少し休んでいなさいね」
「……」
俺は布団から手を出し、先生の手をとった。
先生は少し驚いた顔をしたけれど、抵抗はされなかった。
そのまま手の甲を自分の唇に持って行く。
本来ならば、女性に対してひざまずいて、手の甲にキスをするのだろう。
今の俺は寝たままなんでカッコわりいけど。
でも、先生に対する敬愛の気持ちをそこにこめたつもりだった。
ごめんね、先生。
俺のしたことは卑劣な行為だし。
あんなことをした俺に、先生は心を傾けてなどくれないだろう。
自業自得だ。
だけど、こうやって先生の穏やかな顔を見ていると、まるで愛されているかのように勘違いしてしまう。
先生の心のどこかに、俺の場所があるんじゃないかって、そう思ってしまう。