第13章 特進クラス争奪戦(銀八side)Rー18
10分くらいそうしていただろうか。
俺はぼうっとしたまま窓の外を見ていた。
秋空に飛行機雲が白く映えていた。
この位置からは校庭は見えないが、体育の授業の号令が聞こえてくる。
穏やかな日だ。
「血は止まった?」
俺のシャツを洗ってきれいにしてくれた保健の先生が声をかける。
「このまま干しておけば、夕方には乾くと思うから」
「ありがとうございます」
濡れたタオルを渡される。
顔をぬぐうと、タオルに血の跡がついた。
「顔色が悪いわね」
「……ちょっと、疲れがたまっていて」
「学園祭で張り切ってたからじゃないの?クレープが大人気だったみたいね。私も買ったわ」
「ありがとうございます」
疲れたのはむしろ学園祭の代休日になんだけど、ということは黙っておいた。
「先生、ちょっと…あの……気分が悪いんで、昼休みまで休ませてもらっていいですか」
保健の先生は俺の顔をしばらく見ていたが、よほど俺が青い顔をしていたのだろう、ベッドを開けてくれた。
「すみません」
「昼休みになったら、授業に戻るか、早退するか、考えましょう」
「はい」
俺はベッドの布団に身体を横たえた。
不思議だ。
昨日の夜、一人で家にいたときよりも、人の気配がある方が落ち着く。
俺はそのまますぐに寝入ってしまっていた。
どのくらいそうしていたのだろう。
誰かの話している声で目を覚ました。
「鼻血はとまったんですけど、あまりに青い顔をしているから、昼休みまで休ませることにしました」
「ありがとうございます」
「熱はないみたいだし、大量の血を見たショックがあったのかもしれないけれど」
「ええ」
そのとき、別の人間が保健室に入ってくる音がした。
「すみません、こいつがサッカーで足やっちゃんたんですけど」
「あらあら」
目を閉じてそんなやりとりを聞いていると、不意にカーテンが引かれる音がした。
ぼんやりと目を開けると、愛里先生が立っているのが見えた。
ああ、俺は夢を見ている。
最初に思ったのはそれだった。
そのくらい、寝ている俺をのぞきこんだ先生は女神にしか見えなかった。