第12章 銀の雫(girl's side)Rー18
ホテルを出て、ファミレスで食事をして、勉強を教えてあげて。
照れ隠しにいつもより饒舌になった私の言葉に、彼は微笑みながら、うんうん、と相づちを打っていた。
少し寝たとはいえ、あれだけの精をを吐き出して、眠い顔もせずに私の話を聞いている。
若いって、こういうことなんだろうか。
高校生にしては少し大人びた瞳を眺めながら、そんなことを思った。
「またパフェ食べようかな」
「ほんとに糖が出るんじゃないの?」
「ねえ、先生、そうなると、アレも甘くなるんですかね?同じところ通るわけだから……」
「何その斬新すぎる発想」
「じゃあ、俺ので試してみます?観察日記的に定点観測すれば……」
「そうね、飽きたら噛みきっていい?」
「うわー、想像しちゃいましたよ」
彼は股間に手をやり、子どものようにきゃっきゃと笑う。
「先生って、下ネタに絶対返してきますよね。俺、先生のそういうとこ、好きです」
うん、それはほめられているのだろうか。
だけど、楽しそうにしている彼を見ると、まあいいか、という気になってしまう。
教師としてそう思っているのか。
1人の女としてそう思っているのか。
正直、よくわからない。
夜が更けてからファミレスを出て、一人歩きはあぶないから、と、自宅前まで送ってくれた。
そういう丁寧な女性の扱いをしなれているのだろう。
大人と遜色ない大きな手が、私の手を包み込む。
「暗いから、手をつないでいても、もう大丈夫でしょ」
そのぬくもり。
ずっとこのままでいたいけど。
「1日、先生を俺にくれて、ありがとうございます」
家の前で彼はそう言った。
「こんな最高の誕生日、生まれて初めてです」
もともとは、私とあの男の関係を口外しないという口止めだったはずなのに。
こんなふうに言われたら、もう、この言葉を信じてしまいたくなる。
「さよなら、先生」
「さよなら、銀八くん」
後ろ姿を見ていたらつらすぎるから。
私は逃げるようにドアを開け、部屋の中に入り、鍵をしめた。
電気もつけず、暗いままの部屋で、窓の外を眺める。
出の遅い月が、東の空に見えた。
涙ににじんでいくその銀色の光を見ながら思った。
私はきっと忘れないだろう。
10月10日。
君なしで生きてきた日々が色あせて見えるくらい、銀色に染められた1日を。