第12章 銀の雫(girl's side)Rー18
「痴話ゲンカ、終わりました?」
冷たい声がして、私は振り返った。
光を反射して光る、美しい銀色の髪の毛。
だけどその表情は、私が教えている可愛いあの彼とは全く別人であるかのように冷やかだった。
こんな表情も持っているのか。
私は、彼について何も知らないのだと思わされる。
「……坂田…くん、……ずっといたの?」
どかっと隣に腰掛ける彼に、そう言うのがやっとだった。
「校内で痴話ゲンカするのやめてもらえませんかね?」
唇をゆがめながらペラペラと話し始める彼。
なんと私が男に襲われている様を、写真にまで撮ったのだという。
あの男との関係が知られれば、この少年と一緒にいることはできなくなる。
真っ先に思ったのはそのことだった。
不倫への目が厳しい昨今、間違いなく私はクビになる。
そうしたら、私とこの少年を繋ぎ止めている細い細い絆も絶えてしまう。
「坂田くん……」
私は彼の腕をぎゅっとつかんだ。
つい先日、椅子から落ちそうになった私を支えた、たくましい腕だ。
「こんなこと、お願いする筋合いがないのはわかってるけど……、お願い……、誰にも言わないで……」
最後の方は声がかすれた。
私のこの懇願をどういうふうに受け取ったのだろう。
彼は唇をゆがめて、冷たい笑みを浮かべたまま、私を見下ろしていた。
ああそうか。
この少年は私のことを軽蔑しているのだな。
私はそう思った。
手近なところで男を漁って。
生徒には偉そうなことを言いながら、その実男にだらしない。
妻がいようが、生徒だろうが、片端から食い散らかす、そういう女が、己を守るために生徒に懇願している。
そう思っているのだろう。
そしてそれは、あながち間違いではない。
確かに生徒相手に行為に及んだことはない。
だが、この少年の唇に触れたいと思った、あの時の私自身の行動を考えれば、それも程度問題でしかない。
しかし――。
それでもなお、たとえ軽蔑されたとしても、この少年との絆を切ってしまいたくなかった。