第11章 10月10日限定彼女(銀八side R-18)
ホテルを出ると、もう風が冷たい季節になったのを実感する。
手をつなぐ。少しのぬくもりが、心まで温かくする。
「腹減ってないですか?」
「うん。お腹すいちゃったね」
「途中のファミレスでなんか食って、ちょっと古典教えてもらっていいですか?それで、夜中になる前に送っていきます」
「え?勉強道具持って来てるの?」
「俺、真面目な生徒だもん」
「真面目な生徒はホテルに女を連れ込んだりしません」
「真面目な先生がホテルに生徒を連れ込んでるじゃん」
そう言われてにらむ横顔も好きだ。
さっきまで身体をつなげていた彼女と、繁華街のファミレスであれこれメニューを選んでいるこの幸せ。
なんか「お付き合いしてます」って感じじゃね?
本当は偽りのお付き合いなんだけど、俺は満足だった。
誕生日にファミレスでもいいんだよ。
相手が誰かってことだよ。
先生と一緒なら、どこでだって最高の誕生日だ。
「1日、先生を俺にくれて、ありがとうございます」
送っていった愛里先生の家の前で俺はそう言った。
本当は先生の部屋も見てみたかったけど、部屋にまで入ったら、今度は部屋で押し倒しそうだったから、理性を総動員させてとどまった。
「こんな最高の誕生日、生まれて初めてです」
「何言ってるの」
「嘘じゃないです。……本当の俺の誕生日は、よくわからないらしいですけど、でもやっぱり10月10日を誕生日にしてもらってよかった」
「え?」
「今の施設に拾われたあと、覚えやすいからってゾロ目の誕生日にしてもらったみたいです」
「……」
「先生」
「ん?」
「最後にキスさせて」
俺はそっと彼女の唇に自分のそれを重ねた。
最後にぬくもりを味わうように。
「さよなら、先生」
「さよなら、銀八くん」
もう約束の時間は終わりだ。
さよなら、俺だけの愛里先生。
さよなら、今までで一番幸せな誕生日。
帰り道、俺は先生のぬくもりを思い出しながら、手に入らない心を思って、一人歩いていた。
人間の欲はとどまることを知らない。
先生の身体を手に入れてしまったら、今度は心もほしくなる。
こんなに好きなのに。
あの教師なんかより、ずっと俺の方が、先生のことを好きなのに。
俺のことを見て。
俺のことだけを見て。
右の頬が冷たい、そう思って頬に手を当てたとき、涙を流している自分に気づいた。