第3章 夏が始まる
喧騒から一人残された私は、先ほどまでのやりとりを思い出しクスリと笑いをこぼす。
久々に会った木吉は、記憶の中の2年前の彼よりも身長は伸び、全体的にがっしりと筋肉がついた印象を覚えた。
顔つきからは幼さが消え男らしい雰囲気へと変化していたが、優しい笑顔は以前のままで、その笑顔を見た私は少しホッとしてしまった。
木吉と出会ったのは4年前―――
夏休みを利用して日本に帰国していたある日。
いつものように赤司の習い事が終わるまでの時間をバスケットコートのある公園でぼんやりと過ごしていたら、一人の少年がボール片手にバスケットコートへ現れた。
その少年は軽い準備体操を済ませると、黙々とシュート練習やわざとボールをボードに当ててはリバウンドの練習をしていた。
ベンチに座ったまま何気なくその姿を見つめていた私だったが、その少年がとても楽しそうにボールを追いかけ、シュートする姿がとてもキラキラしていて、いつの間にか目を逸らすことなくその姿を追っていた。
それに気づいた少年は頬を掻き、少し恥ずかしそうに笑いかけてくれて。
木吉「俺の練習…そんなに見てて楽しいか?」
「うんっだって、あなたとても楽しそうにボールに触れるから。それに…すごく上手!」
目を輝かせ話す私に木吉は一瞬目を見開くが、すぐに目尻を下げた優しい笑みを見せてくれた。
(あ…この笑顔…いいな……)
木吉「だったら、一緒にやろーぜ?」
____あの時から赤司を待つ時間も、楽しい時間へと変わり、木吉との関係は夏休みの短い時間ではあるが、翌年の夏も同様に同じ時間を共有したのである。
(何か懐かしいな…でも、会えてよかった!)
木吉と再会できたことに喜びを感じつつ、私は再び備品選びに戻る。
あと少しで最後のテストも終わる時間になる。
待ち遠しさに心がうずうずしてくる感覚を覚える。
きっと部員達はさらにうずうずさせているだろう。
そのためにも今やれることをしっかりやろう、と気を引き締める私。
さあ、全中優勝へのスタートラインはもうすぐそこに見えてるよ。