第13章 枷 元就 ★
それからどれだけの年月が経ったのだろうか。もうわからないくらい屋敷に籠りっぱなしだった。
彼女は衣食住に困るような生活はしていなかった。
衣類はそのたびそのたびを気に入った男が届けてくれていたし、食ならば食べていなくても生きていける。住はこの屋敷さえあれば他に居場所など必要なかった。
ただ、孤独というものは心をむしばんでいくのだ。
彼女の中の元就という存在は、誰よりも、どんなものよりも大きかった。
「会いたい、なぁ」
窓から見える景色には、太陽の光を反射する海がよく見える。
海岸沿いに建てられたこの大きな館、戦国にはそぐわない異様な空気感を漂わせる不思議な空間。まるで未来からきたような可笑しな建物。
故にほとんど人は訪れなかった。
ある晩、酷い雨だった。
台風でも来てしまったのではないかというくらいの豪雨と暴風で、いつもなら月光を眩しいくらいに反射している海は光を一切遮断して、荒れ狂う獣と化していた。
その時、
大きな音を立てて屋敷の入り口であるドアが閉まるような音がした。
「…誰か来たの?」
こんな荒れている日にまさか訪問者がいたとは気が付かず、もう既に屋敷内の電燈は落としてしまっている。
彼女に怖いものなどなかったのだが、何故突然ドアが閉まったのか確認するのはどうしてか気が引けていた。それは、よくわからないものだ。
音を立てることなく、は部屋を出て確認しに行く。
「…とんだ災難に見舞われたものだな」
「うるせぇなぁ…行きてぇっつったのはアンタだろ?!」
「好奇心には勝てぬ」
何処かで聞いたような声と、その声に罵声を飛ばす男の声。
懐かしさに心をもっていかれそうになり、ふと現実を見る。
どうやら彼らはこの大雨の中どこかへ向かう途中だったらしい。その懐かしい声の持ち主が強気な男の声の持ち主を供とし、目的地へ向かうはずだったのだがこの大雨の中の移動は危険と思い近くにあったこの館へと転がり込んだ、というのだ。