第12章 頑張り屋 幸村
「嫌な思いをさせてたなら、ごめんなさい」
「某は」
「嫌われたくないの。嫌われるのが怖いの。」
顔を上げないまま、はぽつりぽつりと話し始めた。
幸村はそれを黙って聞くことにする。
「小さい頃から周りは笑って過ごしてたし私もそうだった。だから常に私の周りには笑顔があり続けてるもんだと思ってた」
はその体制のまま、声を震わせる。
「でも、中1の時、ちょっとだけいじめられたことがあってね。その時突然私の周りから笑顔が消えたの。本当にちょっとの期間だったんだけど」
「殿…」
「だからみんなに嫌な顔してほしくなくて、常に笑顔でいてほしくて、皆が嫌な事は私がやればいいんだって思ったの」
「だが、それではいつか殿は限界を迎えてしまうではないかっ」
幸村はそう言っての肩を掴んで頭を上げさせた。
「――ッ!」
「ごめん、前の話すると泣けてきちゃうんだ」
は困ったように笑いながら涙を流していた。泣き叫んでいるような辛そうな泣き顔ではなく、自分で涙が制御できずに勝手に流れてきているのだというように。
「真田君に話す事じゃなかったね。心配してくれてありがとう。私の事は気にしなくっていいよ」
ごめん、そうもう一度謝っては自分の鞄を持って教室の出入り口へ早歩きで向かう。
「待ってくれ」
逃げるように立ち去ろうとする彼女を幸村は必死な表情で腕を掴み、引き留めた。だがは振り返らず、何も言わず、ただ俯いたままだった。