第10章 お腹が痛い 慶次
暫くすると保健室のドアがあき、先生が帰ってきた。
それと同時にあのキンキンした声の発生源も帰ってくる。
「さん?調子はどう?」
「…まだちょっと」
「そう…お母さんは家にいる?連絡しましょう」
「いや、いいです、多分そろそろなおるし」
先生はじゃあもうちょっと休んでもいいから、と言ってまた談笑へいく。
これは先生としてどうなんだろうか、とは不機嫌そうに小さく舌打ちをする。
具合が悪くて保健室に来ているのに、何故授業をさぼりたい人がここにきて、具合の悪い人が休むのをその声で妨害するのかには意味が分からなかった。
さっさと追い返してほしい、と思っていると隣のカーテンがあく音がする。
「おいおい、今病人が寝込んでるんだぜ?そっとしといてやれよ~」
「あ、慶次じゃんっ」
「こんなところでサボってたの~?」
病人扱いされるのは少しイラついたが、注意してくれたことに関してとても嬉しかった。
「サボってんじゃねぇよ、付き添い付き添い」
「まぁサボる口実としては最高よねぇ」
「あ、わかるわかる、そうとでも言っておけば先生もオッケーしてくれるし」
「だから、そんなんじゃねぇって!」
正直、もそれはあるんじゃないかと思っていたのだ。
心配してくれて荷物まで持ってきてくれて、とてもありがたかったのだが何故自分にこんな優しくしてくれるのだろうと疑問に思っていた。
あの甲高い声を発する女子の言う通りならば納得もできる。そもそも慶次は授業に参加する態度はそんなによくもなく、前の席になったのにも関わらずぐぅぐぅ寝ていることだってある。そのたび先生にひっぱたかれるのは殆ど名物化しているのだ。
だからの付き添いとして保健室に来て、それを口実に面倒な授業から逃れていると言えば慶次も気兼ねなくここで休めるのだ。
そう思うと利用されている自分が情けなく感じて、目がしらに熱いものを感じた。