第10章 お腹が痛い 慶次
チャイムの音で目が覚めた。
これは恐らく3時間目の現代文が終わるチャイムだろう。
耳を澄ませて、少しだけ周りに意識を向けてみると、寝る前まではいたはずのあの女子らの声が全く聞こえなくなっていた。
カーテンの隙間から様子を伺うと先生の姿も見えなかった。
「あ、あれ…?」
先生用のデスクの上には何かメモ用紙が貼り付けてあった。
さんへ
おはよう、調子はどう?
先生達は職員室にお昼を食べに行きます。
さんもお腹が空いてるのなら教室に戻ってもらって大丈夫よ
一応担任の先生にも伝えておくから、まだ痛かったら残ってていいわ
「…え、そんなに寝てたの?」
時計を見れば少し遅いと言われているお昼の時間だった。先程のチャイムはお昼休みを告げるチャイムだったらしい。
だがまだ少し腹痛はあり、とてもではないがお昼を食べようとは思えなかった。
「いてて…」
ずきんときた腹をかかえ、もう一度ベッドに座りなおす。
薄暗い保健室内では時計の秒針が動く音が響き、少しだけ不気味な雰囲気だった。
外では生徒が騒いでいるのに、なぜかとても遠くに聞こえて自分だけ別の世界にいるんじゃないかと不安になるような…妙な気持ちだった。だがそれでも保健室から出ようとは思わなかった。
「はぁ…どうしよう、荷物取りに行こうかな…」
「俺が持ってきてやってるから大丈夫だよ」
「…えっ?」
ふいに何処からか声が聞こえて、周りを見渡しても誰かがいるような様子がない。
「ベッド借りてるよー」
今迄ねていたベッドの隣にあるカーテンを勢いよく開け放てば眠そうに目を擦りながらの鞄をぽんぽん、と叩いた。