第6章 戦う人 幸村
「…お前のためだ、」
「…何を仰っているのですか?」
幸村の真っすぐな目に嘘をついていると疑うことはなかった、が、正直意味が分からなかったのだ。
「俺が没した後、に幸せな世を歩んでもらいたい」
「―ッ!」
気が付けば、血の匂いと幸村の匂いに包まれていた。
先程までむせかえっていた血の香りがどんどん消えていく。何故だろうか。同じ血の匂いのハズなのに妙に落ち着く。
「こんな時で悪かったな、…俺は、を」
「おやめくださいッ!戯言にございましょう!?」
そう言って幸村を跳ね除けようとしても、全くかなわなかった。男と女とではこうも力が違うのかと再びわからされた気がした。
「俺は、知ることができなかった」
「な、なに、を…っ」
「の事をだ」
「幼き頃から、共におりました」
「それでもわからない事ばかりだ。理解するのが怖かった、離れて行かれるのが怖かった、嫌われるのが、怖かった」
震える幸村の声は、今まで聞いてきた泣き言よりも怯えているように聞こえた。
「…こんな事を今更言っても、無駄であろうな」
「…っ」
「俺達が出会えた、あの日まで今遡れるとしたなら、…いや、この感情を消せるとしたなら楽になれるのかもしれぬ」
体を離すと、暑いはずの風がとても冷たく、悲しそうに通り抜けた。