第6章 戦う人 幸村
1615年、大阪夏の陣。
六文銭の御旗のもと、真田幸村は残る炎を焼き尽くすまで槍を振るい続けていた。
「真田様ッ!お引きください、これでは全滅も免れません!!」
真田軍、いや、武田軍のころから仕えていた女武将のもこの大戦に身を投じ、命が擦り切れるまで刀を振るい続けると約束した一人だ。
「何を言うか!最後まであきらめるわけには」
「真田様がここでお引きにならなければ無駄に兵を死なせるだけです!」
そう叫ぶの声も届かぬほど幸村は疲れ切っていた。
完璧に勝てる見込みがない事くらい幸村にだって理解はできていた。それも兵だって承知の上だ。
「この日ノ本を幸せにしたいとお考えならば真田様、あなた様は生き延びてください!」
「馬鹿を申すな、俺は最後までこの命、西軍総大将石田三成殿と共に」
「…ッ!」
石田三成、彼は関ヶ原の戦いで敗れた西軍の総大将であった。彼は徳川の兵に捉えられ、家康の命により斬首されたのだという。
生前、三成と約束をしたらしい。
『この身が焼焦がれるまで、石田殿の為に戦い続けます』
と。
だがもう彼はこの世にいない。
幸村が尊敬していた甲斐の虎、武田信玄もその関ヶ原が始まる前に命を落としている。もう幸村は誰の為に戦っているのかなど、はわかりもしなかった。
「もう、石田様も、武田様も、いらっしゃらないのですよ…?!」
そう言うと、幸村は槍に付いた血を布でふくてを止め、今にも泣き崩れてしまいそうなを凝視した。
その視線に気が付き、は幸村の目を見つめる。
「…そうだな、確かに俺にはもう仕えるべき主ははっきりしておらぬ」
「…はい」
「だが、今、俺はお館様や石田殿の為に焼き尽くすわけではない」
言っている意味がわからなかった。
ならば幸村は何のために今心臓を動かしているのだろうか。
そう問い掛ければ、呆れたような顔での頭を撫でた。