第5章 表情 小太郎
小太郎とは15年程の付き合いになる。
幼い頃から小太郎は口数が少ない…というか、喋ったところを見たことがなかっただった。
親からは小太郎は生まれた時から喋れない体質なのだと聞かされてはいたのだが、喋れないだけではないというのが理解できたのは小学生に入ってから3年経った時だった。
表情が、全く読み取れないのだ。
喋れない、表情もない人間が背後に立っていれば誰だって恐怖心を抱くし、その相手がたとえ幼馴染だとしてもいい気はしない。
「ねぇちゃん、本当に風魔君は喋れないの?」
「…どういうこと?」
「喋れないんじゃなくて、喋らないだけだったりしないの?」
「まさか、そんなわけないじゃん」
声を出したくても出せない人がいるこの世の中、もともと声を持つ人間が声を発さないだなんて贅沢にもほどがある。
「本当に聞いたことないの?」
「無い」
小太郎とは長い間一緒にいたが喋ったところを見たことがない。
どうしても声が聞きたくて突然驚かせたり意地悪してみたりしたが、泣くときは声を殺して泣いているように見えるし、笑う時は息を漏らすところしか見たことがないのだ。
それで小太郎が喋ることができましたというのなら、相当はショックを受けるだろう。
「聞きたいって思わないの?」
「…そんなこと聞いてどうするの」
「…いや、ちゃんって、風魔君のこと好きなんだなって思って」
「はぁ?」
一体どうして、とは疑問に思った。
恋をしたことがないと言えばうそになるが、は小太郎に対して特別な気持ちを抱いているわけじゃないと思っていた。
「一緒にいすぎて、大切にされてるの気が付いてないんじゃない?」
「何言ってんの…」
馬鹿らしい、と晴香に手を振って帰り道からそれた道を歩いた。