第13章 枷 元就 ★
その頃、室内では元親は体を起こし元就は横になったまま話をしていた。
「…なぁ毛利、アンタ、わかってんだろ?」
「なにをだ」
「が、かつて愛した相手だってのは」
元就は何も言わないまま、布団に顔をうずめている。
元親にはわかっていたのだ。互いに記憶がありながら、結ぼうとしないその契りを。
「もう一度だけちゃんと話をしてみろよ」
「貴様には関係のない事であろう。入り込んでくるでないわ」
化け物、そう忌嫌われているのは今現在変わらない話だ。その彼女を愛せるのはかつてをしっている元就だけなのだ。今はもう誰も寄り付かなくなったこの屋敷、会話もない中彼女が言葉を捨てられなかったのはきっと言葉を交わしたい相手がいたのだろう。
「…毛利」
「…っ、知らぬ、我は…、など」
「なら、なんでそんな震えてんだよ…!」
元就も、また、怖かったのだ。
どうしようもないこの屋敷内の安心感、踏み入れた瞬間から分かってはいたのだ。ここには知っているやつがいると。
それがまさか記憶の中に鮮明に生き続けているだとは思わなかった。
「まだ…好きなんだろ?」
「煩い」
結ばれることのないその愛だという事は、とうの昔に理解しているのだ。
結ばれることがあるのならば、あの時元就は見知らぬ女を政略結婚だという形だとしても正室に等しなかった。すぐにを正室にした。
だがそれができなかった、いや、できたのかもしれないがが拒んだのだ。
『孤独に染まるこの身体、もう溶けることはありません』
出会った当初、そう言われたことを思い出せば彼女と元就の間にそびえたつ分厚くて高い壁は越すことができないのだと感じていた。