第13章 枷 元就 ★
「して、何故我の名を知っている」
「…あ」
不審そうにそう聞く元就の顔は、本当に何も覚えていないようだった。
それが本当に嫌で、悲しくて、空しくて、一人で思い出に浸っていた自分が情けなくて涙をこらえるのに必死だった。
「…昔の知人によく似ていて」
「そうか。奇遇だな。我も貴様を初対面だとは思えぬ」
「は、え?」
すると、見慣れたあの微笑みが見えた。一瞬、いや、一瞬ではなかった。
それを一瞬と感じたのはすぐにがその顔から目を離したからだった。
「今日は、その、お休みください。ここは長年建っているので頑丈、ですし」
「…お、お言葉に甘えて休ませてもらうか!なぁ!」
元親はこの変な空気を感じ取ったのか、それを回避しようと笑顔で元就の背中をばんばん叩いて空気をどうにかしようとしている。
先程の柔らかな笑みはどこへやら、冷たいいつもの表情にかわった元就はそうだな、と一言つぶやいてに屋敷の中を案内させた。
「随分と立派なたてもんだな、誰が建てたんだ?」
「もう覚えておりませんよ」
何百年前の話だろうか、もうそんな事を思い出そうとも思えなかった。
生みの親の顔も忘れてしまった。本当の名前も何だったか思い出せない。自分が本当に日本で生まれたのか、化け物とののしられ何度暴力による支配を受けたか。性欲のはけ口になったか。もうそんなこと思い出せなかった。
ただ目の前にいる元就に意識がいってしまう。
「なぁ、アンタ、本当に…その」
「本当ですよ、私はもう自分の故郷すら思い出せません」
そう元親に呟けば、そうだったのか、と悲しそうに答えた。
その隣で歩いている元就は屋敷内を案内している途中、ずっとせわしなく視線が動いていた。