第6章 雲にかくれた月。
「とりあえず…洋服持ってくるから着替えろ。」
そういうと、
火神は乾燥機のある部屋へと歩いて行った。
火神自身も自分を落ち着かせるために
別室に移動したのかもしれない。
私は胸を落ち着かせ、
頭の中を整理させた。
どうすれば、
火神が辛い思いをしないか。
その方法は
一つしかなかった。
ぼーっと空を見つめると、
先程まで顔を出していた月が
雲の後ろへと隠れていた。
火神は
私の洋服をもって戻ってきた。
私は洋服を着替えると、
火神の方を向いた。
さきほどからずっと頭で
シュミレーションしている言葉を
口から吐き出す。
「ごめん、火神。私、火神の事好きじゃない。」
「…はぁ!?」
火神はわけがわからないというような顔をした。
「あのね、私、もうすぐ死ぬんだ。言ったじゃん、心臓悪いって。もう余命半年ないぐらい。」
「…。」
火神は黙って私を見つめる。
「だからさ、ちょっと恋人ごっこしてみたかっただけ。別に火神じゃなくてもよかった。最初から…か…がみ…なん…って…すき…じゃな…い。」
涙が止まらなくて、
頭の中のようにスムーズに言えなかった。
「ざけんなよ…今まで…俺がどんな思いでお前を…」
火神は怒ったようにそう言った。
でも、その怒りは静かに収まった。
「…っは。バカみてぇだな。俺一人で勘違いして舞い上がってただけかよ…。鈴音は…俺のこと好きじゃなかったんだよな…?」
火神は確かめるように
私をじっと見つめた。
「…。」
私は静かに頷いた。
涙が止まらなくて、
自分の脳内でイメージした
悪女のようにかっこよく決まらなかった。
でも、きっと
火神は私を嫌いになってくれた。