ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第5章 春嵐
立ち上がってローの座っているイスの後ろへ行き、ローの読んでいる本を覗き見る。
案の定訳のわからないことばかり書いてある。
そう、本を買ってもらった日から医学の本を読んでいるが、覚えたことといえば簡単な傷の処置方法と人体の急所くらいである。
急所を覚えた理由は『戦闘時、楽に落とせるから』という何とも安直な考えからである。
その時、ローが口を開いた。
「なんだ」
「難しい本読むよな」
「まぁお前からしたら難しいんだろうな」
「…どーせアホですよ私は」
ふんっと悪態をつき、ソファに戻る。
しかしローはそんなリンを放っておくはずがなく。
「…本は」
「後でいい。お前がいるしな」
「理由がおかしい」
かなり密着して座ってきたローに、先ほどの胸の痛みが再発する。
「で?なんだ、構いに来てくれたんだろ?」
「…機嫌直しのためにな!ローが機嫌悪いのはみんなが私のせいだって言うから…ていうか全然機嫌悪くないじゃないか‼︎」
ソファの端まで逃げたリンにもう逃げ場はなく、スンスンと首筋のあたりを嗅がれる。
「Σ犬か、いや違う…変態だ」
「そんなこと言う口は躾が必要だな」
顔を近づけてくるローに、もう好きなようにはさせんとソファから立ち上がり離れようとした。
したのだが。
「うわっ」
手を思いっきり引かれ、くりんと対面させられしかもすとんとローの膝の上に落ち着いたわけであります。
「最近頻繁に起こるこの羞恥プレイは呪い?…」
「なんか言ったか」
「いいえ何も」
悠長な笑みをたたえているローに対し、げんなりとしているリン。
「なんか…私もう疲れた」
そう言ってローの胸にもたれかかる。
ふと、あることに気づく。
「…ロー、これすごいぞ…私今ト◯ロの上に乗ってるメ◯の心境だ…謎の安心感…‼︎」
ローは、一瞬思考が停止した。
少しローの脳内の流れを巻き戻す。
リンが自分からもたれかかってきたということに驚きそして可愛いと思った。
このまま食ってやろうかとさえ思ってしまった。
しかし、それからのこの発言である。
「…おれはあんなに腹出てねぇぞ」
「そこじゃなくて、安心感的に」
うきうきとしているリン。この言動が今後いいように使われることなど微塵も思っていなかった。