ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第5章 春嵐
「ほう…?お前はこうするのが好きなのか」
「…小さい頃思い出す。…そう!その時駐留してた海軍のお兄さんによくこうして抱っこしてもらってたんだ」
海軍のお兄さんというワードにイラっとする。
小さい頃のリン…と想像しようとしたところでやめた。まず自分がどうにかしてしまいそうなのと、そんな可愛いのと海軍の野郎がくっついているのを想像したくなかったからだ。
「そいつはどんな奴だったんだ」
「んー…あ、葉巻よく吸ってたなぁ。でも何故か私が近くに行くとすぐ火を消してた」
「そりゃな…一国の姫に火傷でもさせてみろ…煙も吸わせただけで首が飛ぶかもしれねェ」
なるほどー、と納得するリン。依然としてもたれかかったまま。
ローはそんなリンの背中に手を回し、まるで小さい子をあやすようにポン、ポン、と一定のリズムで背中を優しく撫でる。
「ロー、私赤ちゃんじゃない」
すこし恥ずかしくなったのか、離れようとするがそれを許さない。
「んなこと気にすんな。その海兵もこうしてやってたんだろ?小さいお前に」
「そうだけど…」
こういうのを嫉妬と言うのだろう。
過去にあった出来事に嫉妬するなんて思ってもみなかったロー。
「国が混乱する前に、その海軍のお兄さんは違う場所に行っちゃったけどね」
少し寂しそうに言うリン。ローは大体の予想がついた。
母親は王女として忙しい身、父親は父親で相手にしてくれなかったのだろう。
しかしその海兵が可愛がってくれたというわけだ。
自分の境遇と少し似ているリンの過去。
そんな彼女をさらに愛おしく思い、きつく抱きしめた。
「安心しろ、その海兵よりも可愛がってやるから」
「何言ってる、頭おかしくなったか」
「あぁ、もう手遅れだな」
なんだそれ、と言うリンにククッと笑ってお前のせいだ、と言うと、訳がわからんと返してきた。
「…というか私はなぜこんなことを」
ふと、素に戻ったのか、ぽつりと言う。
「本能で求めてきたんじゃねぇのか?」
「本能ってなんだ本能って、さぁ離せ」
「断る」
「即答すぎる‼︎」
自分の膝の上でもがく猫をホールドして逃がさない。
不機嫌だなんて嘘だったんじゃないのかと後でみんなに尋問しようと固く心に決め、疲れたので逃げることを諦めたリンだった。