ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第5章 春嵐
言われるがままにやってきたローの部屋のドアの前。
機嫌を直せと言われても、何をしたら機嫌なんてなおるのか…
と、ドアの前で悩んでいると、きぃとそのドアが開いた。
「…なんだ」
「ロー、元気か?」
「…あぁ、…?」
「あのな、特に用はないんだけど、ここにいていいか」
「…別に構わねぇ」
許可を得たところで、ローの部屋に入る。
ソファに座り、作戦を練る。
今、ローは何か用があったのか部屋を出ている。
さぁ何をしたら機嫌が良くなるのか。
「ん?別に機嫌悪くなかったよな…」
さっきの会話から、特に機嫌が悪いと感じるところはなかった。よくわからないなぁと思いながら、ぽすんと横になる。
ちょうど枕のようになったクッションから、ローの匂いがした。
(…私は変態か)
と自分にツッコミながらも、クッションを枕代わりではなくぎゅっと抱きしめた。
「…んー……わかんない」
このわからないは、ローの機嫌に対するものではなく、自分の内面に対してのものだった。
最近、読書に没頭していたのはただ単に本が面白かったこともある。しかし、ある一つの理由があった。
ローの事を見たり考えたりすると、心臓のあたりが締め付けられるようになるのだ。
それはリンにとって、未知のものであったため、少し怖かったのだ。
しかし現に今、クッションからするローの匂いに心臓のあたりが締め付けられる。
(…やっぱり私は変態なのか)
いや違うとブンブン首を振った。
そして仰向けになり、足を半分外に出してクッションを抱え直した。
「お前何やってんだ」
「………クッションと戯れてる」
いつの間にか戻ってきたローに訳のわからない言い訳をする。ローはクスっと少し笑って、
「アホ」
と言った。そしてイスに座り、何かを読みだした。
リンは体を起こしてローを見る。
端正な顔、スラリと長い手足。
小説でたとえるなら、もてはやされるタイプの人間だ。
私はなんだろう。取り巻きAくらいか…とそんなことを考えながらじっと見る。
するとやはり、胸のあたりがきゅっと締め付けられるのだ。
新手の病気なのかと思いつつ、とりあえず今は目的達成のためにと心を切り替える。