ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第4章 木の芽風
鍵盤の上に手を構える。
息を吸い込み、思いっきり鍵盤を叩いた。
突然流れ始めた軽快な音楽に、店の中はざわめく。しかしそんなことは御構い無しに、リンはピアノを弾き続ける。
「あ!ピアノ弾いてるのリンだ!」
ベポが言うと、話し合いを一時中断し、クルー達もピアノの方を見る。
「あいついつの間に…つか上手いな」
「意外な一面だ」
口々に言うクルー達。ローも、例外ではなかった。
演奏が終わると、店内は拍手で湧いた。リンはスッと立ち上がり、深々とお辞儀をする。その一連の動作はとても綺麗だった。
「おいアンタ!もう一曲やってくれよ‼︎」
「えー金払うならやってやる」
「払ってやるぜ‼︎こんなすげえ演奏が聴けるとは思ってもなかったからな‼︎」
そう、これこそが一人で旅をしていた時の金稼ぎ方法だったのだ。
「じゃあ…」
スッと構える。今度はアップテンポなジャズピアノだ。
踊り出す連中も現れた。
曲が一通り終わると拍手喝采だった。
帽子を取って優雅にお辞儀をする。
すると、帽子を出してくれと言われ、前に出すと、その中に金が入れられていった。しまいには溢れるほどに。
店の者に適当な袋をもらい、その中に詰め込んで帽子をかぶった。
「最高だったぜあんた!」
「また弾いてくれよ」
「気が向いたらね」
そう言って席へ戻ると、クルー達はすでに外にいるらしい。出口付近で、ローだけが待っていた。
目配せをして店を出る。
というのも、これはリンのための計らいだった。
この酒場に海軍に通じている人物がいないとも限らない。
ましてや普通に顔を出してしまっているこの状況で、死んだという説が覆されるだけならまだしも、海賊と一緒にいたとなると話がでかくなる。
そう思ったローやクルー達はわざとそうしたのだ。
もちろん、リンがそんなことを気付くはずもないが。
「いい演奏だったぜ」
「ローから褒め言葉なんて明日は嵐なんじゃないの」
「バカ言え」
「ふふっ」
賑やかな街を離れ、月が静かに照らす夜道を二人、静かに歩く。