ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第2章 潮風
乗船してから5日。1日のほとんどを部屋で過ごしていたリン。
というのも、ローとの出来事があってからなんとなく気まずかったから、部屋に閉じこもっていただけなのだが。
しかし、ローからもらった小説を10冊全て読み終えてしまったリンは、部屋を出ることを決心する。
久々にご飯の時間以外に外に出る。甲板に行くと、クルー達がなにやら作っている様子だったが、リンを見つけるとビクッと肩を震わせ、全員ぎこちない笑顔で手を振ってきた。
(…なんなんだこの光景)
そう思いながらも、苦笑いで手を振り返した。
ここはやめよう、と食堂に向かう途中、シャチに出くわした。
「リン!めめ珍しいな、部屋から出てるなんて」
「小説読み終わっちゃったから、暇なの」
シャチの様子がなんか変だ。
「おお、そうかそうか!で、今からどこ行くんだ?」
「…食堂」
そわそわしていつにも増して落ち着きのないシャチになんだ?と思いながらも会話を続ける。
「あ、食堂はやめとけ。変な料理の味見させられるぞ。…あ!ほら、船長が来いって言ってたぞ」
「そうなの?じゃあそっち行ってくる」
始終なにか変だったシャチと別れ、ローの部屋に向かった。
「暇だ、そして呼んだ?」
「…突然入ってきて第一声がそれか」
ローは椅子にどっかり座って本を読んでいた。
リンはかつて二回程座った事のあるソファに記念すべき3回目を記録する。
「で、なにか用?」
「あぁ?」
「シャチが、ローが呼んでるから行けって」
そう言うと、何か考えるような表情をした後に、とりあえず飯の時間までここにいろ、と言われた。
「…なんで」
「気にすんな…あぁ、そういやお前まだだったな」
「?」
なにがまだだったのか分からないリンは首を傾げると、ニヤリと笑ったローが口を開く。
「血、採らせろ」
「⁈」
驚いて、護身の為なのかソファの上で縮こまるリンを見て、ローはクククと笑った。
「からかい甲斐があるな」
「…その顔で血採らせろなんて言うから悪い」
「その顔ってどういうことだ」
本を閉じて机の上に置き、椅子から立ち上がって隣に座ったロー。逃げ場はない。
「その…極悪人のような」
「あぁ?」
「…何でもない」