ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第2章 潮風
リンは、何か異形のモノでも見るような目でローを見た。そしてさりげなくローから少し距離をとる。
「…頭、大丈夫なの、医学書の読みすぎなんじゃ」
「どこもおかしくない」
「私からキスとか誰得」
「俺得」
「まともに返すな」
ハッと、顔が近かったことに気づき、顔を背ける。
「大体、キスとかって好きな人間とやるものだと記憶していたけど」
「そうだな」
「だから根本的にまちが」
「早くしろ」
ローがいつの間にか膝の上においていたクッションと入れ替えられる。この技名をシャンブルズというらしい。
悠長な説明をしている場合ではない。結果的にリンはローに向き合う形でまたがっているのだ。どうせいま断ったところで、拒否権はないとまた言われることは目に見えている。
「…わかった。するから、目、閉じて」
「ふっ、可愛いとこあるじゃねえか」
「うるさい」
からかうローの視界を手で強制的にシャットアウトさせ、唇を重ねた。
「これでいいでしょ。部屋に戻る」
視界が開けた時にはもうドアの前にいて、部屋をすぐに出て行ったリン。能力を使ったのだろう。
一瞬だけ触れた唇の柔らかいこと。
ずっと堪能していたくなった。
「…中毒になりそうだな」
昨日の夜が良い影響をもたらしたのか。
明らかに、今までのリンとは違った。
今のは拒もうとすればできた。昨日のように反抗してくればよかったのに、そんなにしなかった。
ローは唇に手を当て、満足そうに口に弧を描いた。
一方、リンは部屋に戻るなりベッドにダイブした。
自分でも理解できない行動を取ってしまった事への羞恥心がピークに達していたからだった。
「…私は一体」
うーん、うーんとベッドの上をのたうち回っていたのだった。