ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第16章 幻風
リンは目の前にいるそれに対して真面目に相手をすることをあきらめた。
「お、その目はもう私に対して敵意など消沈しましたね」
「…読心術でも極めたの?」
「いえいえ。私はそういう存在ですから」
相変わらず唇は弧を描きにこにこと、まるで道化師のようだとリンは思った。
「真面目に答えてほしいんだけど、本当にあなたは何」
すっと真剣なまなざしになるリン。
するとサクは苦笑した。
「答えたいのは山々なのですが、私はサ・クーシャである。それしか言えません。これが私が今出せる真面目な応えです」
リンは感じ取った。本心からそう言っているのだと。
「わかった。…あなたが私を待ってたというのもこれから恩人に会いに行くということを知っているということも腑に落ちないけど…」
「ありがとう」
サクは笑顔になった。さっきまでの道化師のような笑みとは違う、本当の笑顔だった。
「さて、じゃあこれから恩人さんのところに、っていう段階なんだけど、今はやめておいたほうがいいと思いますよ」
「え?」
急に真剣な空気を纏ったサクにも話の内容にも驚いた。
「なんで?」
「あなたは、いわば鍵。その鍵がなくなってしまっては扉が開かないでしょう?」
サクの言っていることが理解できたわけではない。しかし、頷くしかないほどの空気があたりを充満していた。頷くリンを見て、サクはニコリと笑った。
「あ!いいこと思いついた!あなたが鍵、私はその守り人…いい響きだ…中二感!!」
「」
リンは呆れた表情になる。
「鍵の守り人サク…いい響k」
「早く話を進めて」
「手厳しいなあもう」
しゃべり方ももはや客に対するものではなくなってきたがそれももうどうでもよくなった。
サクは白いコーヒーカップを磨きながら口を開いた。
「はっきりと言いますが、あなたがこの島を出るのは半年後になります。それまでここで働いてください」
「はあ?!」
「あ、そうと決まったらエプロンが必要になりますねえ・・・うーん、シンプルもいいけどフリル付きのものも捨てがたい…」
あれやこれやと悩み始めたサクに、思考が停止したリンはぽかんとしたままその思考停止の原因になった性別不詳の人間を眺めていた。