ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第15章 暁風
リンは、自分の事をこんなにも思ってくれる人がいるのかと驚いたのと、嬉しさとで口元が緩むのを抑えられなかった。
「うん、ちゃんと聞いてたよ。無理はしない。約束する」
『よし!約束だ!』
そうして、通話は切れた。
「…勢いがどことなく似てる…エースやルフィと」
子電伝虫をポッケにしまい、深呼吸をした。
正直、無理をしないということは約束できない。というのも、この規模に能力を使うとどうなるのか、自分自身も分からないのだ。しかし、サボの言葉に応えたいと思った。全てが終わり、そして始まった時に、「ほら、大丈夫だったよ」と、笑顔で言いたい。そんな思いがこみ上げていた。
帽子をかぶりなおし、心臓のない胸に手を当てる。
大丈夫。できる。
自分に言い聞かせれば、ローの顔が頭に浮かぶ。
待ってて。もうすぐで会えるから。
リンは目を開いた。
『皆様、今日はお集りいただきありがとう』
ナディーヌの演説が始まる。
手を前に伸ばし、口を開いた。
「変性風、ブレインウォッシング」
その瞬間、穏やかな風が、人々を撫でるように過ぎ去った。
『私は、東と西を一つにしようと考えております』
拡声器を通し、島中のスピーカーからナディーヌの声が響きそう言い切ると、島全体が静まり返った。
しかし、その静けさはすぐに沢山の拍手で打ち消された。
「眠くなってきた…まだ…やらなきゃならな…い…こと……」
気付いたら、モノクロの砂浜を歩いていた。
自分の手も色がない。よく見れば、服が白いワンピースに変わっていた。
ここはどこだ。もしかして死んだのか。
それすらもわからない。リンはただただ歩いた。歩いて歩いて、疲れて砂浜に腰を下ろした。風も何も無い、唯一聞こえる波の音で、ここは海辺なのだという事を教えてくれる。
「色が何も無い」
ごろんと後ろに倒れ仰向けになる。
「風もない」
空も太陽も何一つ色がない。モノクロの世界なのだろうか。
「死んだのかー…まぁそれなりに生きたか…ん?…私は何をしていたんだっけ…あれ?」
自分のことを思い出そうとすればするほど思い出せない。
「あれ…?なんで…?なんで涙が出てくるの…」
いつの間にか頬を伝っていた涙が白い砂浜に落ちた。