ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第2章 潮風
顔の熱を覚まそうと、リンは部屋には戻らず、甲板に出て夜風にあたっていた。
「リン、寝れないの?」
声をかけてきたのは、白熊のベポだった。
「うん。なんだか嬉しくて」
隣に来たベポに寄り添いながら話す。
「私、たくさんの人とこんなふうにご飯食べたり、心配されるのとかすごく久しぶりで…嬉しくて」
「そっか!リンが不安なんじゃないかって心配だったけど大丈夫そうだね!おれも嬉しい!!」
リンはそのベポの姿にきゅんときて、ガバっと抱きついた。
もともと無類の動物好きだったリンにとって、ベポは天使のような存在だった。
「ありがとう、ベポ」
そんなリンをよしよしと撫でるベポに、抱いていた感情を『嫉妬』だと知るのはまだ先のこと。
部屋がとなりなのにも関わらず、リンが部屋に戻った気配がなかったため探しに来ていたローは、くるりと背を向け自室に戻っていった。
朝。
「リン、おはよう!」
「おはよ、えーと、シャチ」
「嬉しいな、覚えててくれたのか」
「あれだけ酒盛りされたらね」
ウッと言葉に詰まっているシャチの後ろからあくびをしながら現れたペンギン。
「おはよう、リン」
「おはよう、ペンギン」
ペンギンは帽子に書いてあるからすぐに覚えた。
バタバタした時間帯が過ぎると、クルーたちはそれぞれの持ち場へと行った。
ガランとした甲板にリンは一人、座って海を眺めていると、となりにローが座る。
「おはようございます船長」
「なんだ、反抗期か」
視線を海に戻す。
「からかいにきたのか」
「おれはそんなに暇じゃねえ」
「じゃあな…に……」
再びローに目線を戻すと、分厚い本が目に入った。
「医学書?」
「ああ」
ずいっと覗き込むリンだったが、数秒見つめてすっと元の体勢に戻った。
「…本は好きだけどこれは読みたくない」
「ククッ…ああ、やめとけ」
この人を小馬鹿にするような笑い方とこの極悪人笑顔にはなれてきたリン。
すると突然頬をぷにっと掴まれる。
「・・・なにふる(何する)」