ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第2章 潮風
その言葉に、ローは少し怖い顔をした。
リンはそれに構わず、クルー達には見せていない表情になる。
静かで、恐ろしく、冷たい表情。
「女で、懸賞金がついていて、処理に使えなくなったら賞金に変えられる便利なやつだと思ったからか?」
ローは椅子から立ち上がり、ソファに深く座っているリンの顔の横に手をつき、顔を近づけた。
「おれたちはそこらへんのクズ海賊とは違う。理由なんてねぇ。俺の気まぐれだ」
「…」
すこし元の表情に戻ったものの、まだ納得のいかないようなリンに、ローはニィっと唇に弧を描く。
「納得いかねえって顔だな。だがお前はもうおれのモンだ。そしてこの船のクルー、仲間だ。それだけは分かっとけ」
リンは目を見開く。
心臓のあたりが温かくなるのを感じた。
ローはリンの頭を優しく撫で、隣に座った。
そんなローにリンは罪悪感で吐きそうになる。
自分が情けなく感じた。
「…ごめん。今のは本心じゃない。変な疑いをかけてすまなかった」
背もたれから体を起こし、謝った。
リンは、これまで生きてきた中で、さまざまな恐怖体験をしてきたため、警戒心が人一倍高かったのだ。
ローはそんなリンの頬を横から撫でた。
「お前のその野良猫みたいな性格を甘えてくる猫に変えんのが楽しみだな」
ピシッと何かにヒビが入る音がした。
それは先ほどの罪悪感だった。
「…前言撤回すっぞ」
「おれは本気だ」
無駄に自信満々な船長にため息をついた。
「逆に安心する。それだけ堂々とされるとね」
リンはソファから立ち上がった。
「こんな厄介なのを気まぐれで拾って、何が起きても知らないぞ。…でも、ローに拾ってもらえて良かった」
背を向けたままリンは言った。
ローは二ヤっと笑い、
「あぁ、感謝しろ」
と上機嫌ゆえの上から目線。
「…言うんじゃなかった」
と言いつつも少し笑顔なリンにローは驚いた。
「じゃあ、寝る。おやすみなさい」
「あぁ」
リンは、ドアを閉めたあと、少しその場に立っていた。
なぜなら、返事をしたローがとても優しい表情をしていたため、顔が熱くなるという状況に陥ったからだった。