ありきたりな設定とイケメンのちょっと普通じゃない話
第12章 夜風
「おい貴様ァァ!!!今何をした!!!」
後ろから海兵が剣を振りかざしてきた。
それを交わして間合いを取る。
「なにって…攻撃」
「とぼけるな!!今麦わらの道を開けただろう!!」
「いやぁ、的を外しちゃって偶然道が」
「そんなわけあるかァァア!!!」
もう一度剣を振りかざしてくる海兵に、笑顔を向けた。
「敵に背中向けると命落とすよ」
すっと指をさすと海兵が振り向く。そこには同じように剣を振りかざしている海賊がいた。
「じゃ、あとは頑張って」
すぐさまその場から飛び去った。
「ハァッハァッ……」
普段なら兵士たちの家族が暮らしたりしている街の路地に着地をし、息を整える。
兵士の家族達は避難していて、とても静かである。だから、ドクドクと脈打つ心臓の音が良く聞こえた。リンは戦争が始まってから、ある異変に気付いていた。
それは、トラウマであるはずの戦争が、人々が争う姿が、自分を興奮させていたという事実。
剣がぶつかる音、銃声、叫び声、どれもが胸の鼓動を早めていた。
壁に寄りかかり、ズルズルと座り込む。
(…こんな女、ローは愛してくれるだろうか)
手のひらを額に当て、愛しい人の顔を思い出す。
レンガの地面がポツポツと水玉模様を描いていく。
それに気づき、慌てて涙を拭った。
すくっと立ち上がり、もう一度戦場へ向かうために足をを一歩踏み出し、地面を蹴って空高く舞い上がった。
「あ……良かった…取れたんだ…」
戦場へ戻ると、戦闘はさらに激しさを増していた。
エースの姿どころか処刑台は倒壊して瓦礫だけがあり、エースは弟であるルフィと共闘していた。
「血は繋がってないのに…あんなに信頼し合って」
空から見下ろす二人は息ぴったりで、リンは微笑んだ。
しかしそれもつかの間。
サカヅキがエースの体を貫いた。
風が止む。
叫び声が上がる
リンは自分の迂闊さに気づいた。
あの時、エースにも幸福風を使っていれば、どんな不幸が自分に降りかかろうとも、使っていれば…
その時、風が声を運んできた。
『愛してくれて、ありがとう』
エースの声。
風は、その言葉を乗せどこかへ吹き去っていった。
何故か、涙が止まらなかった。