第6章 故郷もいいけど
ここから声は聞こえねえ。
だがあの2人が出す雰囲気というか空気というか、とにかく2人は恋人同士と言ってもおかしくなかった。
見たくもないのに、視線は2人から外れない。
見たくもないのに、凝視せざるを得ない。
嫌だ…
…
手を伸ばそうと無意識で体が動いたと思えば、その男は一度、だけど確実に俺の方を見ると
の頬に唇を落とした。
ブチッ
何かが切れる音がした。
飛び出した俺の存在を表出するためか、草特有の音がザッと聞こえる。
その音にも気付き、俺を見た瞬間焦ったように視線を泳がせた。
何だよそれ。
何でそんな顔するんだよ。
まるで2人の関係を
肯定してるみてえじゃねえか。
『く、クロ君…』
「お前、誰」
及川「俺?中学時代の先輩で、さっきに告白した及川徹でーすっ」
この軽薄そうな男にイラッとしたが、必死に宥めるを見て怒りの矛先はへと向かう。
「で?」
『え?』
「おばあちゃんと一緒に帰ってくるんじゃなかったのか?」
『あ、それは…』
「…お前、俺に嘘ついたのか?」
肩を震わせるは、確かに俺に怯えていた。
(違う…お前は悪くないのに)