第6章 故郷もいいけど
及川「ウシワカちゃんに負けても、飛雄ちゃんに追いつかれそうになっても、がいたから俺は頑張れた。が笑ってる姿を見るだけで俺は…」
…こんな事いっても、君は困るだけかもしれないね。
寂しそうに呟いた言葉は、あたしの胸にのしかかる。
及川「…君が、好きだ」
及川さんの癖は知っている。
本当に思いつめた時は、顔に影が生まれる。
声に覇気が無くなる。
抱きしめられている今、顔は見えないけど声に覇気はない。
これは、本気だ。
『おっ、及川さ…』
及川「徹」
『へっ!?』
及川「昔みたいに、徹って呼んで」
入学した頃から及川さんに気に入られていたあたしは、及川さんの事を徹って呼ぶように言われた。
及川さんも岩ちゃん先輩も最初から先輩後輩の壁は取り払っててくれたから、何の抵抗もなく徹と呼んだ。
だけどその時間も束の間、気に食わなかった先輩達に調子に乗るなと脅された。
変な執拗感も持っていなかったあたしは、2つ返事で及川さんと呼び戻した。
あの時、及川さんがすごく悲しい顔をしたのを今でも覚えている。
『…徹』
昔みたいに徹と呼べば、抱きしめる力が更に加わる。そして呟くようにもう一度、好きだ、と。
『…徹、あのね』
話そうとしたところで腕の力が解放され、徹の笑い声が響く。
及川「返事はいらないよ!どうせ今のに返事もらったって、振られるだけだからね。いつか絶対及川さん素敵!って言わせてあげるから、覚悟しておきなよ!」
『…クスッ、及川さんでいいの?』
及川「だめ!徹がいい!」
徹は昔からこうだった。自分のことを後回しにして、あたし(他人)を真っ先に気遣う。普段はうざい人でも、こういうとこは素敵だと、モテる意味も分かると思った。
大抵は最後の発言で台無しになるけど。
及川「俺はウシワカちゃんにも飛雄ちゃんにも負けない」
『…うん』
及川「あと、ちゃんにも。絶対うんって言わせてみせるから」
『分かった』
及川「それと…もうすぐ東京に戻ってしまうのだから、これくらいはいいよね」
徹はある方向を見ると、あたしの頬に唇を落とした。
(!?)
(ガサッ)