第6章 故郷もいいけど
風呂から出ると、あっという間に勇太郎に捕まった。
なぜか俺の携帯を握り締めて。
金田一「おおおお、及川っ…さん!」
及川「どうしたの?とりあえず落ち着こうよ」
金田一「う、ウスッ!」
勇太郎じゃ話にならないと踏み、一緒の場所にいたであろう国見ちゃんに目を向けた。
勇太郎も国見ちゃんも、飛雄ちゃんと同じく北一時代の後輩であり、1年間しか一緒に過ごしていないものの、2人の大まかな性格は理解している。
国見「…及川さん達が風呂行ったあと、何回も電話かかってて。出るわけにもいかないから無視してたんスけど、突然留守電に切り替わったんです。聞くつもりはなかったんスけど、どうしても聞こえちゃって…」
すみません、と国見ちゃんが謝る。
国見ちゃんは無表情で声に抑揚もなくて分かりにくいけど、今、あの国見ちゃんでさえも興奮しているのがわかる。
謝罪の言葉なんていらないから、早く続けて。
国見「その…電話の相手、さんのお婆さんだったらしく」
国見ちゃんの言葉を聞く前に、彼女の名前が出た瞬間に、スマホに入っている留守電を確認する。
隣にいた岩ちゃんの喉からも、ゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。
ー「あ、もしもし。徹君かい?私だよ、のばあちゃんだよ。夜も遅いから頑張りやさんの徹君はもう寝てるのかね」
のばあちゃんとは知り合いだった。知り合いと言っても、部活が休みの度にばあちゃん家に遊びに行くに着いて行って知り合った、の方が正しい。
ばあちゃんは血も繋がってない俺や、岩ちゃんにも優しくしてくれた。そんなばあちゃんが俺たちも大好きだった。
ー「あの子がこっちに帰ってきてるのは聞いたかい?それで、明日急だけどご飯食べに来てくれるって言ってくれたんだよ。徹君や一君もに会うのは久しぶりなんだろ?良かったらおいで。ばあちゃん、今日はもう寝るから返事は明日で構わないよ。おやすみ」
ばあちゃんからの連絡はそこで切れた。
及川「…岩ちゃん」
岩泉「…分かってるっつーの。監督に言いに行くぞ」
金田一「あのっ!俺も行きたいス!」
国見「俺も」
岩泉「ったく…じゃあ皆で頼みに行くぞ」
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(色あせた思い出に、一気に色がついた)