第6章 故郷もいいけど
いつもは蹴りを入れるかボールをぶつけてくる岩ちゃんは、今日はいない。
岩ちゃんも、一年の勇太郎と国見ちゃんも、もちろん俺も。
合宿中だと言うのに練習を切り上げ外出準備に取り掛かっている。
全ては1本の電話から始まった。
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及川「…あれ?」
岩泉「携帯うっせーよ。誰からだよ」
及川「それが知らない番号なんだよね。固定電話からみたいだし…」
暫くすると鳴り止んだ電話。もう夜中の11時半になろうとしている。こんな時間に誰だろう。
金田一「風呂、お先にどうぞ」
岩泉「おう。行くぞ」
さして気にすることもなく、岩ちゃんと風呂に向かった。
自然と話題に上がるのは彼女なわけで。
岩泉「そういや、何で宮城に来たんだろうな」
及川「それはもちろん、及川さんに会うために決まってるじゃないか」
岩泉「メールも来てねえくせによく言うべ」
及川「ひどっ!」
確かにちゃんからのメールもSNSも来なかったけどさ…俺は愛情の裏返しって信じてるもんね!
岩泉「…あいつ、まだバレーやってるかな」
俺たちは、必死に応援してくれているの前に、優勝を掲げてあげることができなかった。
俺たちは、時折苦しそうな表情をするを知っていた。
俺たちは、そんなに何もしてあげられなかった。
及川「…やってないよ。ていうかやってほしくないよ!ちゃんは俺たちだけのマネージャーだし!」
岩泉「…相変わらず、お前のに対する言葉だけはどれが本物なのか分かんねえよ」
お先ー、といって岩ちゃんは先に風呂から出た。
ポツリと呟いた言葉は、湯気とともに空気に溶けていった。
及川「…そんなの、俺もすっかり忘れちゃったよ」
(…。それほどまでに君と離れた時間が長すぎた。君とのたくさんの思い出も、色あせちゃったのかもしれないね)