第6章 故郷もいいけど
「あっれー?ちゃん、なんか泣きそう?」
叩いてきた上にいつものニヤニヤ顔で現れたのはクロ君だった。まあ分かってたけどね。
けど、いくらクロ君でも思い出に浸る今を邪魔されたくない。その思いで冷たい態度になってしまった。
『…なに、悪い?』
「ああ、悪い」
『なっ…』
てっきりいつものお調子者口調で茶化してくるのかなって思ってたから、悪いと言われて言葉が出てこなかった。
「思い出っつっても過去だろ?そんなもんにいつまでも浸ってんじゃねえよ」
『っ…クロ君に何が分かるの!?あたしはここで15年間過ごしたんだよ!?友達だって仲間だっている!それを…それを、そんなもんの一言で片付けないで!』
視線が痛い。まだ運動公園には着いていないため、音駒の人達だけじゃなくて一般人の視線も感じていた。
だけどそれこそ、どうでもいい。
夜久「…クロ、言い過ぎだ」
「いいんだよ」
夜久「お前なあ、だって…」
「大丈夫、クロに任せて」
クロ君はいつの間にかニヤニヤ顔ではなくなっていた。
「だって俺には関係ねえもん」
『だからっ!!!クロ君に関係なくてもあたしにはっ…』
「それは昔のだろ」
『っ…』
「今、お前は音駒高校排球部マネージャー、だ。そして今、お前は敵としてここに来ている。それを自覚しろって言ってんだよ」
何も言い返せなかったあたしは、ただただ、頷くしかなかった。
(それでも宮城での思い出は消したくなくて)