第4章 非日常、再び
『で、何があったんですか?』
「もういいんだ」
『はあ…』
撫で飽きたのか、今では俺の寝癖を触っている。時折どんな髪型なんだろうと呟く姿が愛おしい。
『ならそろそろ離れてください。あたしマラソン走った後だし、絶対汗臭いです』
「臭くねえよ。むしろいい匂いする」
『どーも。でも離れてください』
離れてと口では言いつつも、は俺を無理に離そうとはしない。力が敵わないと分かっているのか、それとも優しさか。
「敬語と呼び名」
『はい?』
「やめて。敬語外してクロって呼んで」
『…嫌です』
「なんでそこまで嫌がるんだよ」
ずっと気になっていたこと。以前は自分が自分じゃなくなるからと言った。その意味が分からない。
『…はぁ。昔、あたしがバレー部のマネージャーやってたのは話しましたよね。あの頃に戻りたくないんです』
「…嫌な思い出とかか?」
『その逆です。とても充実した3年間を送りました。だからこそ、嫌なんです。あたしにマネージャーは向いてない。あたしなんかに人は支えられない。無理にやることじゃないんです』
「それと俺個人は関係なくね?」
『そうですね。これはあたしの思い込みですが、黒尾先輩は似てるんです、あたしの苦手だった先輩に。根本的なところは嫌いじゃなかったけど、あの人はお調子者だけど、人の奥を見てくる。それが苦手だったんです』
だから、ごめんなさいと俺の腕の中でが呟く。
(はっきり分かったことがある)