第4章 非日常、再び
『あ、ここでいいです…』
「ん。じゃあさっさと買え」
黒尾先輩はまさか出る時も手伝ってくれるのか、ずっと待っててくれた。その妙な優しさに戸惑いながらも、大好きなドーナツを買う。
「…お前、ドーナツばっかりかよ」
『…いけませんか。好きなんですよ』
「いーんじゃね?おばちゃん、こいつの勘定してやって」
支払を済ませると、思った通り黒尾先輩はまたあたしの手を引いて集団から抜け出してくれた。少し皺になった制服の袖が、それを物語っていた。
「大丈夫か?」
『あ、はい…』
夜久「あ、こんな所にいた!探したぞ」
「悪ぃ悪ぃ」
夜久「あれ?この子は?」
「何でもねぇよ。ほら、行くぞ」
黒尾先輩はあたしの頭をまたくしゃくしゃに撫で、横を通り過ぎて行った。
待ってよ…あたしまだ、何も言えてないのに。下着見た事とか、文句言ってやるって思ってたのに。
さっきの事、お礼も何も言えてないのに。
朝の事も、お礼出来てないのに。
『黒尾鉄郎!!!!』
気付けばあたしは叫んでいた。
(周りの視線は何も感じなくて)
(あたしと黒尾先輩しかいない気がした)