第4章 非日常、再び
朝から3年の先輩が教室に来ればそれはそれは注目を浴びるもので。研磨はおかげであたしの背中の後ろに隠れてしまっている。
研磨が呼んだんだけどね。
「さ、問題見せてみな」
『…あたし、自分でも解けます』
「こういうのはさっさと終わらせた方がいいに決まってんだろ?それに、お前は良くても研磨いるし」
「うん。、机くっつけよう」
研磨の後押しに、あたしは渋々机をくっつけた。そして問題発生。見栄を張ったが、あたしは数学はそこまで得意というわけじゃない。
考えたら本当に分かるんだけど、きっと朝礼までには終わらない。
「研磨、そこ違う。ここはこっちの公式で…」
黒尾先輩は本当に頭が良いようで、スマホを構いながらでもちゃんと研磨のミスにも気付いている。研磨のプリントを覗けば、もうあと1問で終わりだった。
あたしなんて、まだ2問しか進んでない。
「んで、お前は終わったのか?」
黒尾先輩があたしの答案用紙を覗きこみ、あたしはそれを反射のように隠した。だけどバッチリ見られていたようで、いつものニヤニヤ顔へと表情筋が働いている。ムカつく。
「なーんだ、まだまだじゃないの。もしかしてちゃん、終わらないんじゃないの?」
『なっ!!!う、うるさい!ちゃんと終わるし!!…です』
「ふーん?もう5分もしかないけど?」
『っ…研磨に教えてもらいますから!』
「俺、人に教えるの無理」
『研磨ぁぁぁ…』
そうだよね、研磨の性格上それは無理だよね…
頑張って頭を働かせるも、一度考えて分からなかった問題はそう簡単に解けるものでもなく、時間だけが過ぎていく。
「ここ、計算違う。Xを代入してるからこうなって…」
黒尾先輩があたしからシャーペンを奪い、プリントの端に計算式を書いてくれる。
『あ、そっか』
悔しいけど教え方は上手く、とても分かりやすかった。その問題以外にも、ポイントとなる公式などをメモしてくれる。悔しいけど字も綺麗だ。
「あとはここに注意してやればすぐ解ける。頑張れよ」
黒尾先輩はあたしの頭をくしゃくしゃと撫で、鞄を持って教室から出て行った。
隣ではもう終わったらしい研磨の手元から、ピコピコとゲーム音だけが聞こえてきた。
(乱れた髪を直す事も忘れて)