第7章 好敵手(ライバル)
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かつてのあたしの後輩、影山飛雄はその身長と着ているユニフォームだけが変化しただけで、昔のままだった。
綺麗に分かれたM字のような前髪、サラサラの髪、鋭い目付き、ふてぶてしい顔。
だけどあたしと話している時は、少し嬉しそうにする顔。
自惚れだと勘違いしないまでに、あたしは飛雄に好かれている自信があった。
もちろん後輩の中でも勇太郎や国見ちゃんとも仲良かったし好かれている自信もあったけど、飛雄だけ群を抜いていた。
それはどうやら今でも変わらず好きでいてくれているらしく、今物凄いスピードでこちらに走って来てくれている。
そして極めつけは、そのスピードのままの抱擁。
『ぐぇっ』
カエルが潰れたような声が出てしまったのは許してほしい。
『ちょっと飛雄ちゃん、潰れちゃ…』
影山「さん…さん…!!!」
『…ん。久しぶりだね、飛雄』
東京へ出発する日、あたしは誰にも会ってない。別れが惜しくなるから。
飛雄達、北一バレー部も見送りに来てくれるとしつこいくらい言ってきたけど、あたしは嘘をついてまで旅立った。
それが飛雄には相当堪えたらしい、電話やSNSの通知が大量だったけど、あたしはそれを無視した。
決して飛雄がの事が嫌いだったわけではない。もちろん勇太郎や国見ちゃん、岩ちゃん先輩(徹も一応)からの連絡にも返事はしていない。
飛雄は涙は流していないものの(顔は見えないけどきっと飛雄は泣かないだろう)、震えた声であたしの名前を呼び続けた。
(自分よりも大きい男の頭を、ただただ撫で続けた)