第1章 一山いくらの林檎 前
「・・・というわけなんですよ。」
「ははっ。土井さんみたいな素敵な女性にそれだけ悩んで貰えるなんて、身に余る光栄だな。
ほらまたこんな、余裕綽々の勘違いさせるような発言。
「よく言うよコンニャロー。」
やっぱりあたしには本心を見せないのね。どうせ心の中ではあたしを嘲っているんでしょう?
あたしは牛尾を睨みながら、何ともまぁ美味しいブランデー入りの紅茶を一口啜った。
ここは牛尾宅。と言っても大豪邸の実家ではない。
大学近くの、大学生にしちゃいい家に住んでますねぐらいな、ちょっと広めのこじゃれたアパート。
最近ようやく分かって来たことだけど、牛尾は案外普通の大学生と変わらない金銭感覚で生活しているらしい。連れて行ってくれたお店やプレゼント、それにこの家がそれを証明していた。
「実家から車でも十分通えるけど、可愛い子には旅をさせよってね。」
そう笑った牛尾は、誰だったか友人の家でも見かけた量販店のクッションに腰を下ろした。
アパートとはいえ綺麗過ぎるほど生活感の無い部屋が、いかに牛尾が大学に通いつめているかを物語っていた。
「寝泊まりするためだけのアパートなんだね。」
「毎日大学か実家の仕事場だからなぁ。僕って物欲も無いんだよね。」
牛尾はそう言うと普段からは想像がつかないほどリラックスした様子で、でもやっぱり上品さはキープしたまま紅茶を啜った。