第1章 一山いくらの林檎 前
・・・今更な事を言ってもよろしいでしょうか?
どうしてわたくしは牛尾様の御宅にお通り遊ばせ申し上げているのでございましょう?
いやまぁ、さっきまでバーでふらつくほどお酒を飲んでいたのはあたしです。
お酒に強い牛尾に合わせようと見栄を張って、そこまで飲めもしない強いお酒をがばがば飲んだあたしが悪いんです。
ついでに言うとオシャレしようと頑張ってハイヒールをはいてきたのも悪いんです。こんなので歩いて帰れるはずが無いのです。
えぇ、えぇ、あたしが悪いんですね?分かってますとも。
でも!そこまでお酒を飲みまくったのは牛尾にも原因があるのよ!?
だってあんなに雰囲気のいいバーで!あ、あ、あ、あんなこと言われたら!もう飲まずにいられますかって話よ!
「土井さんみたいに魅力的な女性なら、ぜひお付き合い願いたいところだね。」
いつも通りの冗談だとしても!ただのお世辞だとしても!酔った勢いだとしても!
牛尾の魅力とお店の雰囲気とお酒の力を借りれば、夢見心地にもなりますってもんよ!
その上でこいつは「ふらつくなら僕の家で休んでいくかい?」なんて提案してきたわけですよ奥さん。
確かに牛尾の家は近かったさ。隣駅の我が家に比べたらそりゃあ近かったさ。コンビニでみすぼらしく潰れるよりはよっぽどマシだったさ。
でも気付いたらこんな遅い時間になっちゃったし。終電行っちゃったし。帰れないし。
これはどう考えても、お泊まり、ですよね?