• テキストサイズ

フルーツポンチ【Mr.FULLSWING!!】

第4章 1つで5桁のメロン 後


あたしを包む牛尾の腕が、ほんの少し抱き寄せてくれた気がした。
「僕はね、どうにも自分の事を人に伝えるのが苦手らしいんだ。」
顔を上げると、牛尾は予想に反して晴れ晴れとした顔で笑っていた。
「土井さんは僕という人間を分かって上げられなかった自分を責めてるみたいだけど、そもそも僕が臆病で伝えてなかっただけなんだよ?」
牛尾があたしの鼻をツンと突ついた。
「土井さんはよく自分を卑下するけど、僕には僕でコンプレックスがあるんだ。」

牛尾の意外な発言に、あたしは今更ながら驚いてしまう。
「牛尾にコンプレックス?」
「あれ?そんなにおかしい?」
「うん、似合わない。」
「やだなぁー、僕だって人間だよ?研究を投げ出したくなったり、土井さんに嫌われないかビクビクしたりもするさ。」
「牛尾ほどの素晴らしい人が、あたしみたいなクズに嫌われないかビクビク震えるの?」
「あ、ほら。また自分を卑下して僕を持ち上げる。」
「・・・ごめん。また偏見を押し付けた。」
「いいんだ。僕も見栄を張らないようにするよ。」
牛尾が顔を近づけて、こつんとおでこを合わせて来た。
「ゆっくりでいいから僕の事を知って欲しい。僕も頑張って伝えて行くよ。」
これからの頑張りを見て好きかどうか決めてください、なんて僕もずるいね。そう言って牛尾は笑った。



ふとあの日を思い出した。あたしの胸に顔を埋めて甘える牛尾。
そうか、素直な牛尾の片鱗は見えていたんだ。
それでも牛尾は弱みを見せず、あたしは卑下ばっかり続けて、お互い自分に精一杯だった。
相手を見ているようで見ていなくて、理解したつもりでフィルターが邪魔して、自分を表現したつもりで建前ばかりで。
結果、表面上の事実にとらわれて都合良く相手を利用し、体を求めてしまった。

あたしも牛尾も弱い人間。
でも、相手を理解しようと、許そうとする強さがある。
・・・お互い、自分の弱さも許せるようになったらいいね。
/ 72ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp