第4章 1つで5桁のメロン 後
「林檎だって美味しいじゃないか。」
神妙な顔をした牛尾は、あたしの顔を覗き込むように見ている。
「高級メロンも美味しいかもしれないけど、食べられるのは一部の人だけだ。林檎はみんなから愛され食べられている。だろう?」
その表情はどこか寂しそうで、あたしはすごく居心地の悪い気分になってしまう。
やめて、そんな顔。
確かにあたしはあんたの気分を害するような、嫌味ったらしい事を言ったかもしれない。
でもあたしには、あんたにも、もう全てがどうしようもないのよ。
何も思ってないくせに優しくなんてしないで!
「じゃあ食べてみる?」
もうどうでもよくなっていた。
「林檎は美味しいんでしょ?」
鬱憤任せの挑発が口を飛び出す。
「みんなに愛されてるなら、牛尾もあたしを愛してるのよね?」
あたしは何を言っているんだろう?
「あの日だって、あたしの事抱こうとしてたじゃない。」
まだわずかに残っていた良心があたしの顔を殴った。
でもあたしはそんな痛みなど無視して牛尾を見据える。
あたしに見えているのは牛尾でなく、あたしの網膜にへばりつく独りよがりな欲望だった。