第3章 1つで5桁のメロン 前
久しぶりの牛尾の家。1度しか行った事が無いのにしっかり場所を覚えていた自分が憎い。
マンションの階段を上がる。靴がステップに当たる音がやたら響いて聞こえた。
それに呼応するように、あたしの心臓も馬鹿みたいに音を立てていた。
思わず「じゃあ牛尾の家で。」なんて言っちゃったけど、今ではもう後悔しつつある。
どう考えてもあの場面は断るべきだった。また過ちを繰り返す訳にはいかない。予防線を張っておくべきだった。
なのに出来なかったのは、牛尾の態度以上にあたしの本音が邪魔をしたせいだ。
もしかしたらあたしは、女の子にちやほやされている牛尾に嫉妬してしまったのかもしれない。
だからあたしは牛尾の家にだって行けるんだぞと、特別な存在なんだぞと、無駄な自意識を確認する事で自分を納得させたかったのかもしれない。
あーもう!あたしなんかが牛尾の家に上がり込んだらダメなんだってば!
お互い好きでも何でも無いのに、牛尾の事を信じても無いくせに、子供っぽい短絡的な独占欲だけで行動しちゃダメなんだってば!
中途半端な気持ち、中途半端な決意、中途半端な行動。自分をコントロールする事さえ出来ない自分に嫌気がさす。これだから卒業も出来ないんだ。卑下だってしますよ。最低だ。さいってい。
ガチャッと鍵を開ける音で意識が現実に戻った。もうすでに牛尾の家の前。
「散らかってるけど笑わないでほしいな。」
そう言って開けられた玄関に、牛尾の後に続いて上がる。
照明がつけられ、半年振りの広い部屋が姿を現した。
「・・・なーにを言ってんだか。」
めちゃくちゃ綺麗じゃないか。