第1章 一山いくらの林檎 前
牛尾は少なからず、あたしを好ましい人間だと思っている。
そうでもないとあの忙しそうな牛尾がわざわざあたしのために時間を割いてくれるはずがない。
だからあたしは妙に、そんな事無いはずなのに、牛尾の事を気にしてしまっている。
なんで牛尾はあたしを誘うの?
牛尾はあたしをどうしたいの?
あたしの心労をよそに、あいつはいつだってなんて事無いような飄々とした笑顔を浮かべている。
・・・あたしはあの笑顔が気に食わないんだ。
本心が見えない。あたしに対して壁を作っているようにしか見えない。
とりあえず人当たりのいい愛想笑いを浮かべてるんじゃないの?何よ、そんなにあたしは信用ならない?
壁を作る程度の人間という事は、つまり牛尾はあたしなんて好きでも何でも無いわけ?
そのくせあの形のいい口からは「土井さんは素敵な人だ。」なんてさらっとお褒めの言葉が飛び出て来る。
そんなのお世辞に決まってるくせに。上流階級お得意のエスプリの効いた冗談のくせに。
あいつの考えてる事は分からん!
あたしが彼を恋愛対象として見れないのは、そういうところも一因していると思う。