第1章 一山いくらの林檎 前
「牛尾様とデートに行けるなんていいなぁー!!!」
牛尾の話をすると周りは決まってこんな黄色い声をあげる。
「あんなのデートじゃないって!何なら今度紹介しようか?」
でもあたしは周りに羨ましがられる度に、2人にその気が無いことをアピールしている。
あたしが牛尾についてどう思っているかと言えば、あたしの知らない世界をいろいろ教えてくれる、尊敬し羨ましくもある面白い友人ってぐらいの気持ちだ。
確かにこんな素晴らしい上流階級の人間と交流が出来るなんて恐れ多い事なのは、いくら馬鹿なあたしでも分かっている。
逆を言えば玉の輿に乗れる滅多に無いチャンスだという事も認識している。
でもやっぱりあたしとしては牛尾は高嶺の花過ぎて、とてもお付き合い出来る相手とは思っていない。
だってあたしは劣等生だよ?大学の単位はギリギリ、頭は悪い、ドジで間抜けで要領の悪い・・・クズ。
そんなあたしにとって牛尾はまるで漫画の向こうの王子様のような感覚。ここまで来ると恋愛感情なんて微塵も湧いてこないぐらいだ。
牛尾からしたら理系という女性が寄って来ない環境において、女であるあたしが珍しいだけなんだろう。
・・・寄って来ないって言ったけど、相当規模の大きい隠れファンクラブがあるのをあたしは知っている。みんなも彼が高嶺の花過ぎて近寄れないんだろう。
そんなモテる牛尾様が、あたしみたいな女を好きになるはずが無い。だからあれはデートじゃない。そんなはずは無い。
でも何となく、ある程度の好意は感じる。