第3章 1つで5桁のメロン 前
ようやくお店から出て来た牛尾は、珍しく割と本気で困ったような顔をしていた。
「待たせてごめんね。」
それでもあたしに対しては笑顔を向ける。逆ナンについても特に触れない。
牛尾のあまりにもスマートな対応が面白く無くて、あたしはせっかくなので茶化してみる事にした。
「モテモテですねー。さすが牛尾様。」
「モテないよ。ああいうのは初めてだ。」
「うっそだー!?告白とかバレンタインとか、すごい数貰ってるんでしょ!?」
「あぁ、バレンタインは・・・。でもあんな事されたのは本当に初めてなんだ。」
牛尾は「こんなの見られちゃって、何だか恥ずかしいな。」と困ったように頭をかいた。
その向こうのガラス扉から、席に着いたらしい女の子達がこっちを見ているのが見えた。
そうよ、牛尾様は本来モテモテで目立つのよ。女の子なんて選り取りみどり、選び放題のハーレム状態なのよ。
あたしみたいな可愛げの無い女なんか誘わなくても、その気になれば日替わりで可愛い女の子とデート出来るだろうに。
「で、アドレス交換とかしたの?」
「あぁ・・・誘われたけど断ったよ。個人情報流出が怖くてね。」
その断り方はいくらなんでも色気が無さ過ぎないか?
「それにしても、全然交流した事無い後輩が僕の事を知ってるなんてなぁ。びっくりしたよ。」
牛尾は何だか考え込むように感想を述べた。半笑いのその顔は、多分本当に心底驚いているんだろう。
・・・もしかしたら、隠れファンクラブがある事も知らないのかしら?
でもそんな事を教えたら話が長くなりそうだから、もう何も言わない事にした。
考え込む牛尾の向こうに、未だにこっちをちらちら見ている女の子達が見えた。
その表情は恋する乙女のようなものではなく、どこか不満げな、面白く無さそうな顔。
きっとあの子達、なんであんな女が隣にいるのよ!?って思ってるんだろうな。
あたしにだって分かんないよ。なんであたしなんかが今こうやって牛尾の隣にいるのか。