第3章 1つで5桁のメロン 前
「じゃあ、土井さんとはまたこうやって食事に行けるんだね。」
牛尾は嬉しそうに笑って言いのけた。
「もう会えなくなるのかなって思ったから今日は誘ったんだけど、まだ大学にいるなら嬉しいよ。」
気にするなとは言ったけれど、なかなか失礼な事を言ってくれるな、と正直思った。
「あたしにとっては喜ばしい事では無いんだよねー。」
「あぁ・・・すまない。配慮がなってなかったね。」
あたしの嫌味に申し訳無さそうに頭を下げる牛尾。
「ううん。あたしの方こそごめん。」
牛尾に頭を下げさせるなんて何と言う事を。
「あたしなんかが怒る資格無いのにね。生意気言ってごめんなさい。」
あたしも頭を下げる。冗談めかして机に頭をぶつけてみせた。
「同じ事の繰り返しになるけど、あたしなんか、なんて言わないで欲しいな。」
顔を上げると牛尾はあたしを覗き込むように深々と見ていた。
「そんなに自分を卑下する事無いよ?」
・・・簡単に言ってくれるわね。
「だって留年だよ?卒業という、普通の人が出来る事さえ出来なかったんだよ?お金かかるし迷惑もかけるし、もう本当に正真正銘のクズだよ。」
自分で言ってて悲しくなって来た。そうなんだよなー、もはやあたしは普通以下の虫けらなのだ。
牛尾はというと、顎に手を当てて考え込む素振り。
「まぁ・・・確かに世間一般の規範から考えると褒められた事じゃないかもしれないけれど、1年や2年なんて長い目で見たらちっぽけな事じゃないか。」
視線が重なって、向けられた表情は笑顔。
「土井さんの魅力は、成績とかそんな事では語れない。土井さんは他の人には無いものを持っている。本当に素敵な人だよ。」
不意をつかれたあたしは、うっかりフォークを取り落としてしまいそうだった。