第3章 1つで5桁のメロン 前
気まずいムードになるのが嫌で、あたしはフォークを手に取りパスタだけ見るようにした。
牛尾が何も言葉を発さない所を見ると、どう声をかけようか悩んでいるようだった。
「そんなに気にしなくていいよ?」
まだパスタが口に残ったまま、行儀悪く言葉を投げかけるあたし。
「3ヶ月前から分かってた事なのよ。成績悪いから就活も上手くいかなくって。ほら、あたしみたいなクズが就活と論文の両立なんて出来るわけないじゃん?」
早口でまくしたてる。あたしの心境なんて簡単に伝わりそうなもんだ。
「おかげで奨学金も止まるわ親に怒られるわ、親にも教授にも迷惑かけるわなんだけど、まぁどうにか了承してもらったよ。」
牛尾はただただ口を真一文字にきゅっと結ぶ。
「でもねー、まだモラトリアムを続けられると思うと気楽なもんよ。」
「・・・そうか。」
ようやく出て来た牛尾の言葉はとても謙虚な音量で、顔を見るとやっぱり困惑した表情。
「もう!そんな顔しないでよ!牛尾がそんな気にする事無いじゃん!」
「あぁ・・・気を遣わせてごめんよ。」
牛尾は弱々しく笑って、あたしと同じようにフォークを手に取った。
「土井さんが元気ならそれでいいんだ。」
牛尾なりの気遣いに、あたしは思わず苦笑してしまった。
「・・・実はね。」
無言でしばらくパスタを食べていた末に、牛尾は柔らかいトーンで声をかけてきた。
「僕も大学に残る事になった。」
「あ!じゃあ院試受かったんだ!」
「おかげさまでね。」
「うわー!おめでとう!」
水の入ってないグラスを持ち上げて乾杯のポーズ。牛尾も続いてグラスを持ち上げる。
「ありがとう。」
グラスはカチンと小さな音を立てて、2人の境遇に彩りを添えた。