第3章 1つで5桁のメロン 前
「どうせその言葉も嘘なんでしょ?」
ブラックボックスな牛尾の本心にいらついて来たあたしは、大人げなく嫌味ったらしく噛み付いてしまった。
「・・・どうしたんだい?急にそんな事言って。」
牛尾は怒る素振りなんて毛程も見せずに、あたしを心配する表情を浮かべた。
「何か土井さんの気に触るような事を言ったかな?」
「・・・何も?」
あなたを信用出来ません、なんていくらなんでも言えなくて、あたしは笑顔を作って適当にはぐらかした。
「ただ、あたしなんか素敵なはず無いからさ。」
「あ。またあたしなんかって言ってる。」
急に牛尾の声のトーンが変わった。
「しばらく会わない間にまた癖が出て来ちゃったのかな?」
顔を上げると、そこにはあの日みたいに真剣な表情の牛尾。
「自分をそんなに卑下しないで欲しいな。」
少し射竦められてしまったけど、そこは負けてたまるものかと反抗の態度。
「あたしは劣等生だからさ。」
「人間の価値は成績なんかじゃ決められないよ。土井さんは他にやりたい事があったんだろう?大学生はやりたい事をやるべきだと僕は思うし、それは勉強じゃなくてもいいじゃないか。」
模範解答のような牛尾の対応はあたしのイライラを加速させるだけだった。
「・・・あのね、実は今日は牛尾さんに報告する事があるんですよ。」
「ん?なんだい?」
あたしも牛尾もフォークを置いて、少しばかり真面目な雰囲気になる。
「このたび留年が決まりました。」
吐き捨てた言葉を流し込もうと、あたしはグラスの水を飲み干した。