第3章 1つで5桁のメロン 前
「なのにこれですよ。」
「ん?何か言った?」
「いやぁ何も?」
視線を空中に投げてあたしは答えを逸らす。
明らかに挙動不審なあたしに対して「優しい優しい牛尾様」は、問いただすような野蛮な真似はしなかった。
メインのパスタがやって来て、あたし達はフォークを手に取り口に運ぶ。
「美味しい。」
「それはよかった。」
牛尾はにこにこ笑ってトマトソースのパスタをもう一口。
・・・牛尾ってトマトソースを服にこぼしちゃうのはもちろん、口の端につけちゃうような失態さえしないんだろうな。
あたしはクリームソースのパスタをくるくるフォークに巻き付けながら、そんなくだらない事を考えていた。
本当に完璧な人間だ。改めて牛尾を眺めてため息が出て来た。
端正な顔立ち、放つオーラ、言動もバックボーンも全てが理想形。
あの時のお泊まりについても考えてみたけど、牛尾は弱音の吐き方さえも完璧だった。あんなのただの萌えじゃないか。可愛かったぞコンニャロー。
誰だって理想通りの完璧人間には好意を寄せる。あたしもなんだかんだ言いながら、牛尾の事を嫌いになっては無い。
・・・なんであたしなんかが、こんな素晴らしい人と一緒にいるんだろう?
そもそもなんであたし達、仲良さげにプライベートで会うようになったんだっけ?