第2章 一山いくらの林檎 後
そういえば確かに「好き」とか「愛してる」みたいな、恋愛感情を伝える明確な言葉は言われてないような。
牛尾がはっきりと言ったのは「自分を大切にしろ」って事だけだ。別に「彼女として」「生涯の伴侶として」あたしを買い占めるとは一言も言っていない。
牛尾からしたらあたしを買い占めるというのは、例えば難民救助に近い感覚なのかもしれない。
つまりあくまで「お友達としてあなたを大切に思っていますよ。」って事なんじゃないか?だからあたしの「なんであたしを選んだの?」に対して「選んだって?」なんて答えが返って来たんじゃないのか?
えっ?でもでも、3徹してるのにわざわざ会ってくれたのよ?
さっきバーで「土井さんとお付き合い出来たらなぁ。」とか言ってたのよ?
3徹の酔っぱらいの体でお姫様抱っことかしてくれちゃったのよ?
というか抱こうとしてたわよね?「勃っていたら抱いていた」みたいな発言したわよね?
それに甘えるのもあたしの前でだけって言ってたし、それはつまりあたしは特別な存在ということよね?
牛尾はあたしが、好き・・・って事よね・・・?
あぁでもでも、それが全て上流階級の大人の世界で揉まれて来た牛尾による「エスプリの効いた冗談」なのだとしたら。
「やっぱりお前の気持ちは分からーん!」
結局あたしはこれからも、牛尾御門様に振り回されることになりそうだ。